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アルト・ハイデルベルク マイヤーフェルスター作
東ドイツ、ザクセン地方のカールスブルグ公国の王子、カール・ハインリッヒは、早くから両親を亡くし、伯父、大公の手で世継ぎとして育てられた。王子の生活は哲学博士を家庭教師とした、規則に縛られた厳格な毎日だった。王子は学齢に達すると、当時の習わしに従って、他の貴族の息子達と同様に、大学へ行くことになった。入学試験を受け、めでたくハイデルベルク大学に入学が決まる。
いよいよハイデルベルク行きの列車に乗り込んだ王子は、まだ見ぬ学生の町、古城の町に胸を踊らせている。王子にしてみれば初めての城外生活である。王子の下宿はネッカー川の畔にある、リューダー夫妻の経営する宿で、いつも若い学生達で賑わっていた。この宿にケティと言うウィーン生まれの娘が働いていた。ケティは宿屋の主人の親戚筋にあたり、故郷には小さい時からのいいなづけが、牛飼いをしながら待っていたが、ケティはどうもこの男との結婚に気が進まなかった。
いよいよ王子の乗った列車が到着する。王子を歓迎するため、ケティは花束を用意し、詩を暗唱した。「遠き国よりはるばると、ネッカー川のなつかしき、岸に来ませる我が君に、いまぞ捧げんこの春の、いと麗しき装飾、いざや入りませ我が家に、いずれ去ります日もあらば、しのび賜れ若き日の、ハイデルベルクの学びやの、幸多き日の思い出を」
王子の前でこのような詩を暗唱したケティは、美しい王子を目の前にして夢中だった。そしてどちらも親を早く亡くしているという境遇から、共通の寂しさも手伝って、二人は身分の違いを越え、急速に親しくなっていった。学生達も日夜おきなく、王子の宿を訪れ、王子は歌とワインと歓声に包まれて、幸せな学生時代を過ごしていた。学生達ばかりでなく宿に出入りする使用人達とも仲良くなった。61歳の洗濯男、ケラーマンには、自分が大公になったら給仕長にしてやるなどと気さくに話をするのだった。
4カ月ほど過ぎたある日のこと、カールスブルグ公国より使いの者がやってくる。大公が病気にかかり治りそうもないので、すぐに帰国するようにと伝える。一年間の大学生活をわずか4カ月で終えなければならない苦しさに、王子は悩むが、国政の重要性を考えると、帰国を決意しないわけにはいかなかった。王子はケティとも悲しい別れを交わし、ハイデルベルクの町を後にする。
2年が経ち、カール・ハインリッヒはカールスブルグ大公となった。カール・ハインリッヒは、気の進まぬ政略結婚をあと2週間後に控えて、ますます深い悲しみに沈んでいた。そんな時、ハイデルベルクから一人の老人が訪れてきた。洗濯男のケラーマンだった。久々に懐かしい顔を見て、カール・ハインリッヒは胸が一杯になる。ケラーマンに温かい飲み物を勧めながら、彼は次々と昔の友人の消息を尋ねていく。懐かしいケティはまだ宿にいて、王子が去ったあとよく泣いていた事などを聞くと、大公はいてもたってもいられなくなり、その夜すぐにハイデルベルクを訪れることにする。青春のわずかな時を過ごした、懐かしい町ハイデルベルクへ。
しかし、時は移り、世の中は変わっていた。大公を再び迎えたハイデルベルクは、昔の学生王子を迎えた町とは違っていた。大公が泊まっていた宿も、昔ほど学生が寄りつかなくなっていた。学生達も、打ち解けた昔の姿を失い、大公に会見するというので皆緊張し、おどおどしている。大公のために歌った懐かしい学生歌も、精彩がなく、彼はわざわざハイデルベルクにやってきたことを後悔しそうになっていた。
「青春の時とはなんと、うつろいやすいものであろうか」
そんな中で変わらぬものがあった。それはケティの愛だった。
「みんな昔のままだったよ、ケティ。マイン川も、ネッカー川もそれからハイデルベルクも。ただ人間だけが変わってしまった。昔のままの人は一人も見つからなかった。」大公はケティを抱き寄せ「変わらないのは君だけだ。ケティ君一人だ」
そのケティもウィーンに帰り、結婚することが決まっていた。そして大公自身も、2週間後には結婚式を控えているのだった。
「私たち二人は、どうしようもなかったのよ。そうでしょう。私たちはいつもそのことを知っていたわね」
ハイデルベルクを去ってゆく大公の脳裏に、過ぎ去った短い美しい青春の思い出が浮かんでは、消えてゆく。
「ぼくのハイデルベルクへの憧れは、君への憧れだった」ケティにそう言って、別れを告げた大公は、新しい人生に向かって歩いていくのであった。
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